A.N.Y Talks

A.N.Y Talks online   公開インタビュー #2

アーティスト・イン・ホームステイの提案

ノルマ・ペサディヤ、鮫島弓起雄

JaM -Artist in Homestay- 運営代表



新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴い延期となっているイベントのゲストに、そのご活動内容やコロナ禍での取り組みなどをインタビュー形式でお話いただくA.N.Y Talks online。今回は、メキシコと日本のアーティスト交流プロジェクト「JaM -Artist in Homestay-」の運営代表であるノルマ・ペサディヤさんと鮫島弓起雄さんのお二人にお話をおうかがいました。

(聞き手:渡辺望/アーティスト、A.N.Y Talks 主宰)


まずはじめに、それぞれ簡単な自己紹介をお願いします

ノルマ・ペサディヤ(以下 ノルマ):Hello! Thank you for having us, my name is Norma Delgado, but in art I’m known as NORMA Pezadilla, it is a nickname my son gave me when he was little and couldn’t say my full name, in Spanish pesadilla means 悪夢, it may sound strong but for me comes from a pure place. I’ve been living in Japan 5 years now and have been working in the tourism industry all this time and on the side I’ve been doing art like painting but also modeling for photographers and live drawing groups.  

【意訳】 こんにちは!お招きくださりありがとうございます。私の名前はノルマ・デルガドです。アートの世界ではノルマ・ペサディヤとして知られています。ペサディヤは息子が幼い頃につけてくれたニックネームです。彼は小さい頃、私のフルネームを言うことができなかったんです。ペサディヤはスペイン語で悪夢を意味します。強く聞こえますが私にとっては純粋な場所から来たものです。私は5年日本に住んでいて、この間ずっと観光業界で働いています。その一方、絵画のようなアートを制作しているだけでなく、写真やライブドローインググループのモデル業もしています。  

鮫島弓起雄(以下 鮫島): こんにちは、鮫島弓起雄です。東京を拠点にアーティスト活動をしています。主に、立体作品やインスタレーション作品を制作しています。僕のライフワークというか、ライフスタイルというか、に欠かせないキーワードがアートと旅行です。美術大学在学中に留学したり卒業してからも、制作活動以外に年単位の長期旅行なんかもして、東京でもゲストハウスや民泊の仕事をしていた時期もあったりしました。これからお話しするプロジェクトもそのような背景が関係しているものになります。よろしくお願いします。


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JaM -Artist in Homestay- について教えてください

ノルマ:JaM is a project that was born from the need to make a connection between Mexican and Japanese artists, but they don’t only exchange an exhibition space on the host country, the proposal of JaM is that the guest artists experience the life of their hosts and get a better idea of how is the life in the other country. This idea came because normally when you go and do an art exchange or “Artist in Residence” project, you have more like an touristic experience and the workshop or residency space itself, so for JaM, with a new approach “Artist in Homestay”, we wanted to give our artists a deeper experiences where they could not only have international exposure but the opportunity of submerging themselves in a foreign culture. This project progresses on a two-year cycle. We select four or five artists each from Japan and Mexico, visit the other country, stay in local households and hold group exhibitions there. This is a continuous project that the artists bring back the experience of getting involved with the local life in a foreign country and connect it to the next cycle.  

【意訳】 JaMは、メキシコ人アーティストと日本人アーティストをつなぐ必要性から生まれたプロジェクトですが、開催国の展示スペースを交換するだけではありません。JaMではゲストアーティストがホスト(メキシコでの受け入れ先となる人)の生活を体験すること、そして、他の国での生活がどのようなものであるかについてより良い考えを得ることを提案しています。このアイデアは、通常、(アーティストが)アートエクスチェンジや「アーティスト・イン・レジデンス」プロジェクトに参加する時、観光体験のようなものやワークショップ(作業場)または滞在場所を持つことから生まれました。JaMでは「Artist in Homestay」という新しいアプローチで、アーティストが国際的な場に出るばかりでなく、外国の文化に身を沈める機会を得ることができる、より深い体験をアーティストに提供したいと考えました。このプロジェクトは2年周期で進行します。 日本とメキシコからそれぞれ4〜5人のアーティストを選び、両国を訪れ、そこで現地の家庭に滞在し、グループ展を開催します。 これはアーティストが異国でのローカルな生活に密着した経験を持ち帰り、それを次のサイクルにつなげる継続的なプロジェクトです。  

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プロジェクトを立ち上げるきっかけはどのようなものだったのでしょう

ノルマ:I’ve been living in Japan for 5 years now, and most of my work experience have been in tourism, so I’ve seen a lot of foreigners come to Japan and miss some good things because they were so engaged on going to the most touristic places that they forget to enjoy the small things, the same thing I’ve heard from my friends that had the experiences to do workshops abroad. I am always very thankful to live in this amazing country, and wanted to share the little yet impressive things about it with my friends and fellow artists from México, because also, having an exhibition outside your home country is very important and I wanted to find a way to give that chance to others, so one day I asked my friend Yumikio to have dinner together and I told him my idea, he liked it that much that in a few weeks he already had a whole plan set up and even a website… this project was going to happen but without Yumi it wouldn’t have happened that quickly.  

【意訳】 日本に住んで5年になります。そして職業経験のほとんどが観光業だったので、日本にやってきた外国人をたくさん見ました。彼らは観光地を訪れることに熱心で小さな出来事を楽しむ事を忘れてしまったため、いくつかの良い物事を見逃していました。私は同じようなことを海外でワークショップをした経験を持つ友人から聞きました。私はいつもこの素晴らしい国に住んでいることにとても感謝しています。そしてメキシコの友人や仲間のアーティストとそれについての小さいながらも印象的な事をシェアしたかったのです。また母国の外で展覧会を開くことは非常に重要であり、他の人にその機会を与える方法を見つけたかったんです。そのため、ある日、友人であるユミキオさんを夕飯に誘い、私の考えを伝えました。彼はそれをとても気にいり数週間のうちに全体のプランを計画し、ウェブサイトまでつくってしまいました。このプロジェクトはそのようにして実現しました。でもユキキオさんがいなかったらこんなに早くは実現しなかったでしょう。  

鮫島: ノルマの話にすごく共感を持ったのは、自分も同じような思いを前から抱いていたからです。以前国内のアーティスト・イン・レジデンスに参加した時、他のほとんどのレジデンス事業と同じように、作家用に宿泊場所と制作場所が用意されていて、そこで滞在制作を行うというものでした。その時はスケジュールの都合もあって。期間のほとんどの時間を1人でこもって制作に費やしていたので、あとから思い返してみると地元の方々やその土地の文化や風土にどれだけ触れられたのかと疑問に思うことがありました。これはもちろん作家によっての制作内容やコミュニケーション能力、滞在期間によって違ってくることだとは思いますが、僕がその時感じたのはあくまでもゲストとして、ある種一線を画す存在として受け入れられているのだなと思ったのです。これでは本当に地域の生活の実態を知るには限界があるのではないかと。 自己紹介でも触れたとおり、僕は旅行が好きで、できるだけ現地の生活に入り込んだ旅行スタイルが好きなのですが、例えばコミュニケーションは基本的に現地語で行うようにしますし、泊まるときも宿泊施設ではなく地元の人に直接交渉してお家に泊めてもらうなんてこともありました。そうすると、その地域の生活の細かいところが感じ取れるのですよね。その一個一個は本当に些細で他愛もない事柄なのですけど、確実に自分の記憶や内面の奥底に影響を与えるものだと思っています。なので、そういった経験をアーティストが他の地域を訪れることでも得ることができないかというのを以前から僕も考えていたところでノルマの話があったのです。


今回の参加アーティストはどのように選ばれたのですか

鮫島:今回はプロジェクト立ち上げの最初ということで、どのような結果が得られるのか不確定な部分もあり、お互いの見知っている範囲内で作家を選出することになりました。具体的な基準としては、作品の質が高いのがまず第一として、人間的にも信頼ができ、コミュニケーション能力が高く、ホテルや整備された滞在施設ではない場所で生活するこのアーティスト・イン・ホームステイという形態に賛同してくれること、お互いの国に対する興味があることが条件となりました。あとは金銭的な面ですね。最初は助成金などの確約もとれなかったため、ホームステイ先での生活費や渡航費を負担して欲しいというお願いを受け入れてくれることもハードルのひとつでした。

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昨年のメキシコでの活動内容について教えてください

ノルマ:This time it was set in a city called Aguascalientes (Norma's hometown) in Mexico. For as started we reached several non profit associations that help artist collectives, and from that we gathered cash and groceries, we had some promotion in radio shows and social media. Also we made an event to gather money, and asked the assistants to cooperate with whatever they wanted. Since I don’t live in México in the beginning I had to coordinate everything with the artists and the gallery from Japan, as soon as I arrived I had meetings with the artist and we went to the local universities to talk about the project as well, and with Universidad de las Artes we made a deal for a few conferences and talks with for the students, some before the Japanese artists arrived and some where the students would have the chance to talk directly to them and learn about the cultural differences and art processes in each country, personally this was one of my favorite parts, because some of the students participating were my students before I came to Japan and seeing their excitement was really nice, in México as an artist unless you are friends with important people or you have money, you don’t have many chances to get international exposure, or meet artists from other countries, so that is also why I wanted to do this project, and also because I feel this experience is nutritious for both sides., The five Japanese artists have experienced homestays with three Mexican artists in three different households. While staying at the homestay, in addition to the exchange program at the university, we held a group exhibition, collaborated with a local band at the most popular bar in town, had Japanese artists decorate flower arrangements, and held a workshop that was born out of the experience of the homestay.

【意訳】 今回は私の故郷であるメキシコのアグアスカリエンテスという街で計画されました。 (プロジェクトを)開始するにあたって、私たちはアーティストコレクティブを支援するいくつかの非営利団体と接触し、そこからお金や食料品を集め、ラジオ番組やソーシャルメディアでプロモーションを行いました。また、お金を集めるためイベントを開催し、(プロジェクトの)賛同者に何か協力できることがあればと尋ねました。当初はメキシコに住んでいなかったので、日本から(メキシコの)アーティストやギャラリー、すべてをコーディネイトしなければなりませんでした。到着するとすぐにアーティストとミーティングを持ち、地元の大学に行ってプロジェクトについて話をしました。そしてUniversidad de las Artes(アグアスカリエンテス美術大学)とともに、日本のアーティストが到着する前に数回、学生のための会議や話し合いを行いました。交流事業では学生は直接アーティストと話しをし、文化の違いやそれぞれの国のアートプロセスについて学ぶ機会を持ちました。個人的にはこれが私のお気に入りの1つでした。なぜなら参加した何名かの学生は、日本に来る前の私の学生だったからです。彼らの興奮している姿を見るのは本当に良かったです。メキシコでは、アーティストとして、重要な人々と友人であったり、お金がない限りは国際的な場で活躍したり他の国のアーティストと出会う機会を多く得ることはできません。それが、私がこのプロジェクトをやりたかった理由でもあります。またこの経験は双方にとって栄養価の高い(=メリットのあるもの)であると感じます。5名の日本人アーティストは3つの異なる家庭で3名のメキシコ人アーティストとのホームステイを経験しました。 ホームステイ滞在中、大学での交流プログラムに加えて、グループ展を開催したり、町で最も人気のあるバーで日本人アーティストに生花を制作してもらい地元のバンドとコラボレーションしたり、ワークショップを開催しました。それらはホームステイの経験の中から生まれました。


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プロジェクトの手応えはありましたか?また今後の課題があれば教えてください

ノルマ:I think yes, of course we are just starting, but from the society and student community there was a lot of excitement. The exhibition opening day we had an attendance of around 50-70 people, which in my hometown is quite a lot. So we hope in the future we will grow this project, for the artists and for the community too. I believe the Japanese artists came back home with a lot of new ideas and inspiration.

【意訳】 はい。そう思います。もちろん私たちはスタートしたばかりです。しかし社会や学生のコミュニティからはたくさんの反応がありました。展覧会のオープニングの日は50〜70名程度の来場者でしたが、これは私の故郷ではかなり多いです。ですから、アーティストのために、そしてコミュニティのためにも、このプロジェクトを将来的に成長させることを願っています。日本のアーティストがたくさんの新しいアイデアやインスピレーションを持って帰国したと信じています。

  鮫島:やはりホームステイという形態でしか得られない経験ができたかなと思います。メキシコの暮らしのリズムや食生活、家族や友人とのつながり、あるいは経済事情、社会情勢なども含めて。少なからず参加してくれた作家の方々には有意義な時間を持ってもらえたのではと信じています。今後の課題としては、今回メキシコでのプロジェクトの中で色々な事態に対しての予測不足や準備不足で参加作家の方々にも苦労を掛けてしまったので、次回日本での活動ではそういうことの無いようにしないといけないと思っています。また、資金調達は常に考えていかなければならない問題ですね。


新型コロナウイルス感染拡大に伴うプロジェクトへの影響はありましたか

鮫島:今年はJaMの第二部が開催される予定でした。メキシコ人アーティストが来日し、日本人がメキシコで経験したのと同じようにホームステイと展覧会をすることになっていたのですが、残念ながら来年に延期することになりました。 ホームステイがプロジェクトのメインであるという性質上、人の行き来や交流が制限させるという状況は非常に打撃が大きいですね。また、制作活動を継続するという面でも両国の参加アーティストにとって少なからず影響は出ています。

コロナ禍におけるメキシコとメキシコで活動するアーティストの現状について教えてください

ノルマ:Right now, some of them are producing, even Jeshua one of them went to work in Canadá to save money for coming, and with the pandemic he got stuck there, but fortunately he’s still working and he was hoping to have some time next year to do some artworks for the Japan exhibition. Also some of them are applying for government support for artists, for other with the COVID has been a surviving situation, in general the whole pandemic hitted Mexico hard, so if we want it to happen next year we would need to find sponsors and support so they can come, but we will work hard, and I know they all are doing the same.

  【意訳】 現在、アーティストの何名かは制作しています。アーティストの1人であるジェシュアは、日本へ来るためにお金を節約するためカナダへ働きに行きました。そしてパンデミックのためそこで足止めとなりました。しかし幸いにも彼はまだ働いています。そして彼は日本での展覧会のために数点の作品を制作するための時間を来年持つことを望んでいました。また、アーティストに対する政府の支援を申請している人もいれば、コロナ禍においてどうにか生きている状況の人もいます。一般的にパンデミック全体がメキシコに大きな打撃を与えました。そのため私たちがもし来年プロジェクトを実現したいのであれば、スポンサーを見つけてアーティストが日本に来ることができるよう支援する必要があるでしょう。ともあれ私たちは懸命に働くでしょう。そしてアーティスト全員が同じことをしていることを私は知っています。


新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けプロジェクトへの思いや考えは変わりましたか

ノルマ:COVID is a temporary situation I, as soon as there’s a vaccine and the virus is under control we will be able to get back on track, of course the way we used to do things before this happened is not going to be the same, but in some point tourism will be resumed, at least I hope that because that’s also my may way of survival in Japan hehe

  【意訳】 コロナウイルスは一時的な状況であり、ワクチンがあってウイルスが制御されればすぐに元の道に戻ることができるでしょう。もちろんコロナが発生する前の道すじと同じではありませんが、部分的な観光は再開されるでしょう。少なくとも私はそう願っています。それが日本で私が生き残る方法でもあるので。

   鮫島: 移動や対面自体が制限されるという状態を経験したことで、改めてその価値を認識することができました。あらゆるものがオンライン化される中で、それだけではどうしたってカバーできない部分があるとも感じましたし、このプロジェクトの根幹である、実際に肌を通した経験の必要性とそれに対しての欲求が、今後は以前にもまして人々の中に湧き上がってくるのではと思っています。


新型コロナウイルス収束後の予定について教えてください

鮫島: 今はまだまだ残念ながら事態の予測を進めることはできませんが、渡航制限が解除され、スケジュール、予算、大まかな計画を立て始めるまで待たなければなりません。プロジェクトが停滞しないためにオンラインイベントを行うかもしれませんがそれも検討中です。 コロナ完全終息後は、現在来年開催を目標としていますが、メキシコ側アーティストが日本に来てホームステイ、展覧会やその他イベントの実施。その後は2サイクル目に向けてアーティストの選出から次回ホームステイへと続いていきます。フェイスブックやホームページなどで最新情報はアップデートしていきたいと思います。

日本での開催、そして今後のプロジェクトの進展を楽しみにしています!ありがとうございました!


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今後の予定
A.N.Y Talks vol.11「日常を旅する『アーティスト・イン・ホームステイ』の提案」
ゲスト:ノルマ・ペサディヤ、鮫島弓起雄(JaM -Artist in Homestay- 運営代表)

※コロナ収束後の開催となります。開催が決定しましたら下記サイトよりご案内いたします。
A.N.Y Talks 公式ホームページ
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